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フィクションです

勇気を出してきみをフォローするのに2年以上かかってしまった

 8年前のよく晴れた春の日、私は一目惚れをした。長身でぴんと伸びた背すじがとても印象的で、色素の薄い茶色の髪でできたポニーテールから私は目が離せなかった。細くびっしりとはえたまつげはまばたきするたびに風が起こるのではと思わせ、大きな瞳はつねに光を浴びて輝いている。小さな顔、すらりと長い手足、キュッとしまった腰。彼女は頭のてっぺんからつま先まで、すべてが美しかった。

 入学後すぐにあった宿泊体験学習で彼女と同室になった。彼女は、小学4年生の頃に元町でアイスを食べていたらモデルにスカウトされたけれど中学受験のために断ったこと(やっぱり美少女はスカウトとかされるんだなと感心したことを覚えている)、春休みのうちにお母さんから性に関する知識を教わったこと、昔はとても髪が抜けやすくお兄ちゃんがちょっとひっぱっただけでごっそり抜けてしまった経験があること、お兄ちゃんがきらいなことなどを話してくれた。また、彼女は運動が得意だった。とりわけ、野球、ソフトボールが好きで、小学6年生の時の担任の影響でソフトボールを少しかじったことのある私は球技大会でソフトボールを選択し彼女とバッテリーを組んだ。ソフトボールの得意な彼女とキャッチボールをするのは大変だった。もともと運動が苦手なので彼女の球を受け止めるのは難しかったけれど、息がぴったりとあって彼女に褒められるのが本当に嬉しかった。球技大会当日は、初戦で上の学年に当たってしまいいきなり負けてしまった。彼女の悔しそうな表情が忘れられない。余談ではあるが、私たちは野球の知識が豊富な彼女の指導により盗塁をしまくったので次の年の球技大会からは盗塁は禁止となった。

 このように書くと、私と彼女は普通に仲のいい友達のようである。しかし、彼女は私にだけは意地悪だった。好きなアイドルの話をするときは私にだけは絶対に推しのメンバーを教えてくれなかったし、私の名札の裏にゲラゲラと笑いながら「万引き女」と書き込んだりしていた(これは本当に今となってもわけがわからない)。意地悪でいたずら好きで、でもかわいい子だよなぁというのが13歳の私が彼女に抱いた印象だった。

 2年生に進級して彼女とはクラスが離れてしまった。彼女は長かった髪をばっさりと切り、少年のようなショートヘアになった。なんだかんだ真面目でしっかり者の彼女は学級委員長に選ばれた。嫌味がなく明るい性格の彼女はみんなから好かれる人気者だったし選ばれるのは当然といえば当然だけれど、いたずら好きで意地悪な彼女が委員長だなんて私にはしっくりこなかった。たった2つ教室が離れているだけで彼女がとてつもなく遠い存在になってしまったような気がしたのだった。

 3年生になると再び彼女と同じクラスになることができた。確か3年生になって最初の総合学習の時間だったと思う。「弱者」をテーマにグループワークをすることになり自分が調べたい「弱者」を選ぶ時だった。私は仲のいい友人たちが選んだものにピンとこなくて決めあぐねていた。すると1人だけ「ワーキングプア」を選んだ彼女が一緒にやろうと声をかけてきたのだ。そして私たちは2人きりでワーキングプアについて調べてレジュメを作って発表した。彼女がレジュメに「儲からない……」みたいなふきだしつきの棒人間の落書きをしたことをよく覚えている。

 遠くなってしまったと思っていた彼女が普通に話しかけてくれたのが本当に嬉しかった。しかし、私はスクールカースト最下層のオタク趣味の陰キャラである。彼女と2年生の時に仲良くなったと思われるカースト上位の女子から冷たくされた。彼女と話そうとすると必ずと言っていいほど邪魔をされた。次第に彼女とは疎遠になってしまった。

 附属の高校に進学し、再び彼女と同じクラスだったが疎遠な雰囲気は拭えなかった。なんとなく距離を感じてしまい、委員長の指定席に座る彼女を遠くから眺めることしかできなくなってしまった。この頃、友達がたくさんいるはずの彼女はどういうわけか1人きりでお弁当を食べていた。私はクラスで浮いた存在の友人(私自身はその友人のことが大好きで、とても尊敬している)とばかり過ごしていたこともあり余計に彼女に声をかけづらかったのでいまだにその理由はわからない。

 私が高校に在学していた時は高校1年生の授業に声楽があった。毎年冬に学内で発表会をするのだ。先生はとても厳しく、歌を歌うことが得意でなく、特に聖歌の類は眠くなってしまうようなタイプの私にはこの授業が苦痛でたまらなかった。私と彼女は同じパートだった。それだけが救いだった。本番が近づくとホームルームの時間も練習にあてられた。席を移動してパートごとに固まる。どういうわけか彼女は毎回私の隣にやってきた。楽譜をめくるたびに彼女の腕があたる。ドキドキした。歌の練習は本当に嫌いだったけれど、この時間がずっと続けばいいと思った。

 高校2年生になって、彼女とはクラスが離れてしまった。彼女見たさに昼休みのたびに彼女のクラスへと足を運んだ。けれど彼女と話そうとするとどうにも緊張してしまってうまく言葉が出てこない。たまに彼女が話しかけてくれた時は嬉しくて、でも緊張しているのが伝わってしまったらどうしようと不安な気持ちもあって、変に力んでしまっていた。文化祭の当日の朝、校門のところでたまたま彼女と一緒になってお互いがんばろうねみたいな話をしたときはあまり緊張せずに話せてとても良かった。

 バレンタインデーに、毎年恒例の友チョコ交換にかこつけて彼女に手作りのお菓子を渡そうとした。彼女の席の周りを不自然に行き来して、本当に不審だったと思う。結局彼女に渡すことはできず、帰ってから母にあげた。苦い思い出である。

 高3でまた彼女と同じクラスになれたが、この時は私のひどい睡魔と成績不振で手一杯だったので彼女を眺めるだけの機械と化していた。噂で、彼女が有名私大に指定校推薦で合格したという話を聞いた。ちょっとだけ彼女と同じ大学を目指したくなったが、そもそも高校を卒業できるかどうかの瀬戸際に立っている私には到底できっこなかった。

 無事に高校を卒業してから彼女のTwitterアカウントを見つけた。鍵がかかっていたので内容は見えなかった。きっとフォロー申請を送れば許可してくれるだろうけれど、私なんかが彼女をフォローしていいものかと悩んでしまい申請ができなかった。何度か同窓会が開かれたがどれも都合が合わず、彼女に会うことはできなかった。2年以上が経った。彼女がInstagramを始めたことがわかった。中高の頃の友人たちを多くフォローしているようだったので勢いでフォローした。すぐにフォローは返ってきた。そのノリでTwitterもフォロー申請を送った。少し時間がかかったが許可してもらえた。想像はしていたが彼女はSNSにマメではない。最終更新は1ヶ月以上前だった。私はすぐに彼女の全ツイートを遡った。髪を伸ばしていた。バイトをしていた。ひとり暮らしをしていた。酒を飲んでいた。友達と旅行をしていた。そこには私の知らない彼女がいた。

 私は今でも彼女に好意を抱いている。ただ、それは恋人に対する好意とも友人たちに対する好意とも違う。彼女に会いたい。最初はきっと緊張してしまうけれど、そのうち笑顔で話せる気がする。この気持ちは永遠に内緒だけれども。